公益財団法人 東予育英会 東予学舎 東京都調布市にある男子学生寮

東京都調布市にある男子学生寮の紹介です。

 パイロットを目指しています!

 G君(学生)×O氏(OB) 

このコーナーは就職を控えた学生(3、4年生)が先輩を突撃して聞きたいことを聞くコーナーです。本音トークのため個人情報は伏せております。Gは学生、OはOBの発言

パイロットを目指しています!」

G:現在3年生です。漠然と航空業界、旅行業界に進みたいと考えています。航空大手2社のパイロット試験にチャレンジします。
O:君と同じ出身校で、私の知る範囲でも同社内にパイロットが3人いるよ。県人会を定期的にやってるくらいだから愛媛出身の人も多いよ。
G:本当ですか!ワクワクしますね。
O:もちろん合格してもすぐに乗れる訳じゃないよ。研修は2年位かかる。自社養成(航空会社で採用して養成するパイロット。この他に航空大学での養成などがある)でも3年ぐらいかかる。でも0からのスタートだから事前に飛行機の知識がなくても心配しなくていいよ。
G:自社養成の場合でも結構倍率は高いですか?
O:高いよ。資料持ってきたけど…今年の場合…50名だね。50人程に達すると〆切ということだから…ここに書いてある条件を満たせば…早めに申し込んだほうがいいね。
G:早速申し込みます。
O:まず、ネットでエントリーして、1次試験:能力検査(国語、数学、性格検査)、会社説明会、英語(ヒアリング含む)、書類選考 、次に2次試験:面接試験、心理適性検査 、航空適性検査(初期検査)、そして3次試験:航空身体検査 、4次試験:航空適性検査、最後に5次試験:役員面接、英会話。結構英語が大変。そして一番難しいのが「航空身体検査」。ここでドバーッと落とされるから。ここをクリアすればあとは形式的な面接をやるだけやけん。

「教えられたことをどれだけきっちりできるかを見られる」

G:適性検査は2日間あるんですよね…
O:そう。俺たちのときは3日間あって…シュミレーターを使うんだけど…
G:えっ。操作の方法は知ってないといけないのですか?
O:いや、そこで教えてくれる。教えられたことをどれだけきっちりできるかを見られる。
G:それはホントのパイロットが使うようなものですか?
O:いや、それは試験用。小型の簡単なもの。さすがに本物は使わない。計器だけが実物と同様に動くぐらい。まあ言ってみればパソコンのゲーム。それでも、雰囲気は結構あるから…緊張するかも知らん。
G:面接ではどんなこと聞かれるのですか?
O:まあ決まりきったこと。何でパイロットになりたいんですか?なぜこの会社を選びましたか?趣味は?大学時代何してましたか?とか…突飛なことは聞かれない。学舎で4年間生活できた人なら大丈夫。あーゆー生活になじめない人は社会に出てからもなかなか協調できん。
G:先輩の会社の競合社の試験が今月末にありまして、そちらの受験は申込済みです。
O:そうか、かけもち受験は全然OK。俺も競合社の試験を受けたけどあっという間に落っこちた。でも、両方受かる人は少ないみたい。それぞれの選定ポリシーの違いがあるみたい。

「なりたいって気持ちが強すぎる人は…」

G:何でパイロットになろうとしたんですか?
O:君ぐらいの時にゼミの友達が見つけてきて「一緒に受けよう!」と言うことで就職活動の予行演習気分で行ってみた。受けてみたらなんか知らんけど通っていって、もう1社のほうはすぐに落ちて…最初のうちはパイロットになるつもりはなかったんだけど、適性検査の時に、俺たちの時は実際に熊本まで連れて行かれて、3泊4日で飛行機に乗してもらったんよ。小型のセスナに。それ乗ってから、なかなか面白そうだな〜と思って。
G:小さい頃から憧れている人に悪くないですか?
O:それがね、なんか知らんけど、小さい頃から憧れている人ほどこの試験は受からないんだよね。なりたいって気持ちが強すぎる人にはご遠慮願っているのかも知らん。
G:いつごろ決まったんですか?
O:他の会社も回ろうと思ってたけど、4月の末には内定が出たんで就職活動はそれで終わった。というのがホントの所。
G:へぇ〜。肩の力を抜いて正攻法で行くってことですね。
O:そう、「航空身体検査」があるからコネも通用しないし…。

「一番お金がかからんのが自社養成」

G:今は機長ですよね。
O:うん、今はね。研修受けた後、副操縦士をして、10年経って訓練を受けて機長になった。その間にも地上職といって空港のカウンターの仕事を半年から2年ぐらいやったりもする。
G:入社して8〜13年で機長ですよね。
O:最初、国内の学科訓練を半年やって、国家試験に合格してから、アメリカで10ヶ月ぐらい訓練受けて、一度国内に帰ってきて勉強して、も一回アメリカで2つエンジンの飛行機で訓練する。そこで「お客さんを乗せて飛行機飛ばしてもいいですよ」という免許を取って帰ってくる。かなり勉強せないかん。
G:はぁ〜。アメリカで研修ですか。
O:パイロットになるためのソースは自社養成なり航空大学なり自衛隊なりあるけど一番お金がかからんのがこれ。給料もらいながら教えてもらえるし必要なもんは会社から支給されるし…。自衛隊もお金はかからんやろうけど、あそこは合格する率が厳しいみたいよ。基本的には戦闘機に乗るライセンスだから。10人入っても1人か2人しか合格しないと言う世界。自社養成はそこまで厳しくない。50人入ったら48人は合格する…みたいな世界。ところで、君は何でパイロットになりたいの?
G:航空業界に憧れて、調べてたら、今まではパイロットって理系の人がなるもんだろうな…と思っていたのに、実際は半分が文系の人だと知って…
O:ひょっとすると半分以上かもしれん。理系のほうが何かと有利かも知らんけど…それこそ三角関数とか物理とかの知識も必要になるから苦労したけど…、実際、最近の飛行機はコンピューターが計算して飛んでくれるから…。パイロットといってもオペレーターの意味合いが強いからね。でも、もちろん、なんかがあったときは自分で操縦せんといかんからそーゆー知識は必要なんだけど。
G:危機的な状況のための知識…
O:そう。あと、どーしても、学科試験というものがあるんで、その試験に理系の数学みたいなモンがあるから、受かるためには勉強せんといかん。けど、日常業務の中で理系の知識が求められることはない。

「もてるかな…」

G:パイロットという職業を選らぶ際に「女にもてたい」からという動機ってありましたか(笑)?
O:それは考えんかったけど…、実際なってみると、「もてるかな」というのはあったね。
G:やっぱり。キャビンアテンダント(スチュワーデス)さんとかとも…
O:でも、いざなってみると、意外と知り合う機会はないよ。訓練中は女っけは全然ないし…だから、さっき話していた半年から2年の地上研修期間中に空港のカウンターの女の子とかとくっついちゃう。ほんで、実際パイロットになった頃にはもう彼女がいて…なかなかスチュワーデスさんと結婚するって言う人は意外に少ない。もちろんスチュワーデスさんと結婚する人もいるにはいるけど…俺なんかどっちにもひっかからんかったから…
G:えっ?今の奥様とはどこで?
O:彼女とは合コンで知り合った。保険会社のOLよ。でも、スチュワーデスさんの知り合いも多いよ。ほとんどが契約社員だけどね。
G:えっ?契約なんですか!
O:そーなんだよ。3年ぐらい契約社員でやってそれでもやりたいって言う人には正社員…と言う感じでやっとる。
G:チーフパーサー…
O:うん。そのへんは社員がやっとる。結局、会社は安く使いたいと言うのがあるから、あまりキャリアアップでコストアップは望ましくないんじゃないかな。
G:3年続けられれば「使える人」ですよね…
O:うん。もちろんベテランも必要だから全員やめられても困るけど、かといって全員社員になられても困る。
G:花形職業だからこそ会社も足元を見てるんですね…
O:パイロットはまだおいしいところもあるけどスチュワーデスさんは厳しいよ。仕事はきついし条件もきつい。ひょっとしたら時給千円切る場合もあるかも…。
G:そーですか。スチュワーデスさんというと美しい・賢い・気がきく…いい印象しかないですけど…
O:そう?俺なんか目が肥えたんか知らんけど、最近はときめく人には1年に数人ぐらいしか会わんよ。といっても乗る前に顔合わせするだけでその後会うということはないけどね。
G:飲みに行ったりとかはないんですか?
O:無くはないよ。誘ってみて「行きます」って言われたらこーゆー所に飲みに来ることもあるけど…大体、国内線がメインの人だと月に10日間程泊まりがあるんやけど…10日間全部飲みに行く人は少ないとして、その内何日かは飲みにいこかという話になる。
G:同僚のパイロットさんで女好きの方もいらっしゃる…
O:おるよ。それで週刊誌のネタになるような人もいるけどね。
G:でも、パイロットになってるんですよね…
O:面接でそんなこと言わんでもいいけど、「スッチーと飲みに行く!」ということを目標にしてがんばることはいいんじゃないかな。

「英語は必須」

G:パイロットの仕事できついことってありますか?
O:体がしんどいね。国際線を多くやってる人は時差の影響で頭がぼーっとするみたいね。それでも体調を維持しないといけないから結構厳しい。そーゆー人はお金ももらってるけど…自分の健康を金で売ってるみたいなところもあるかもね…。俺なんか、国際線は一応行ってるんだけど、日帰りの中国線ばっかりなんよ。
G:えっ?国際線もやってるんですか?
O:乗ってるよ。
G:機長で?
O:そう、機長で。
G:機内アナウンスは中国語ですか?
O:日本語と英語。そっちは中国人のスチュワーデスさんがやってくれるけん。
G:日帰りですか!
O:そう、行くとみんな泊まりやと思っとるけどそんなに甘くは無い。さすがにハワイとかになると泊まりやけどグアムは日帰り。
G:日常会話レベルでしゃべれる外国語って何ヶ国語ぐらいが必要ですか?
O:英語は、最初の試験でも必要だし、パイロットになってからも必要だし、これからは義務化される。英語は必須。英語の試験は年に1回あって、それに受からんと飛行機に乗せてもらえん。そーゆーふーになってくるんで英語は絶対必要。かといってそんなにぺらぺらしゃべれるかと言うととんでもない。なんかぼそぼそとは言えるけど…という感じだね。まあ、訓練はどーしてもアメリカでやるんで教官はアメリカ人な訳。当然英語で教えてくるからそれを理解せんといかん訳。まあ、でも、言ってることは悪口ばっかり。「お前は何でそんなことができんのぞ〜ばかたれが!」みたいなことを英語で言ってくる。細かくは分からんけど「あー怒っとるな」というのは分かる。まあ、みんなそんな感じで何とかやってる。

「ホント地味な仕事」

G:普段の仕事はどうですか?
O:なったら分かるけどホント地味な仕事。作業としては同じことの繰り返し。けど、外の状況は毎回違うから、飽きることは少ない。十何年やってても飽きたって感じはしない。40年やってる人でも飽きたって言わない。という意味では同じ仕事してても続けてやってられる。
G:雲の中の飛行で前が真っ白の状況ってありますよね。私は前が見えないと不安と言うか怖いですが…
O:上空飛んでる時はほとんど障害物はないから、山にぶつかったりとかいう不安がないから大丈夫だけど、着陸の直前まで見えないという時はやっぱり怖い。そーゆーための技術を最初の訓練で身につけるんやけど…計器だけを見て自分がどこにいるかを把握しながらここでこー曲がってこー曲がってこー曲がって滑走路に下りる…という訓練があって、それは結構大変。
G:計器だけですか。
O:実際には管制官の無線情報も入るけど。
G:それでも、外の情報に身をゆだねる訳ですよね。お客さんの命も…
O:今は飛行機の性能がいいから何も見えなくても自動着陸で降りちゃう。これはすごく怖い。着地するまで何も外が見えない。
G:いや〜、怖いですね。
O:ホントに合ってんのかな…と思いながら。降りて初めて滑走路が見えてくる…という世界。まあ、そんなのに出くわすのは年に1回か2回、あるかないかなんやけど…
G:でも、実際にある?
O:うん、あるよ。でも、そこまで設備の整った空港は日本の中でも3つしかないんやけど。松山はそこまでいってないから、お天気悪いとホント降りられんから。

「瀬戸内海の上を飛んでるときが一番落ち着く…」

G:松山は日本の中でも難しいらしいですね。
O:うん。どっちに降りるにしても追い風になることが多いんで…飛行機の着陸と言うのは向かい風じゃないとちょっとやりにくい。実際に過去に事故も起こってるし。簡単ではない。海から降りるときはええんじゃけど、一回山に回りこんで降りるときは山が近づいてきて怖い。最近は「ぼっちゃんスタジアム」とかができて目印が増えたんでやりやすくなったけど…
G:えー、そーゆーのってあるんですか!
O:もちろん。「ぼっちゃんスタジアム」がみえたら曲がって…とか、あの橋をどれぐらいの高さで越えてとか、そこ越えたら滑走路が見えるとか…その情報をみんなで教えあいながら実際に使ってる。そんなん大事よ。
G:先輩はやっぱり松山空港は上手いでしょう?やはり地元の…
O:そんな事はないけど、やっぱり、実家の上なんか飛ぶとついつい窓の外を見て「今日は天気がええな」とか思ったりするね。確かに日本中いろいろ飛んでるけど瀬戸内海の上を飛んでるときが一番落ち着くっちゅうか…きれいやね。高いとこ飛んでると瀬戸内海見えて太平洋見えて日本海見えて全部見えるんよ。ほんで、低い高度で飛べば、こんなにいっぱい島があるんかっちゅうぐらい小さい島がたくさんある。ホント瀬戸内海は飛んでて面白い。
G:うれしいですね。瀬戸内海がきれいだなんて…
O:日本中いろいろなきれいなところはあるけどわざわざ言っちゃう、瀬戸大橋が見えます、しまなみ街道がご覧いただけますって。
G:アナウンスは機長の判断ですか?
O:そーよ。いい景色が見えたら「夕日がきれいです」とか言ったりするよ。国際線とか飛ぶとオーロラが見えたりね…
G:えっつ?オーロラ見られたんですか?
O:そーよ。いやっちゅうほど見とるよ。きれいだよー。こんな感じに見えてえーんだろうかと言う感じで見える。

「好きなことに挑戦したほうがえーよ」

G:いーですねー!今の職業の「満足」と「不満足」を挙げるとしたら何ですか?
O:いい点は…同級生と飲んだりした時に、会社に対しての愚痴はあっても仕事に対しての愚痴がないから、やっぱり、この仕事やってて良かったなと自分で思えること…人にも薦められるし。これからは多少苦しい状況になるやろうけど…パイロットは今までみたいにいい目は見られない…20年前のパイロットはもっとおいしい目をしてる…給料も良かったし、仕事もそんなにきつくないし、いろいろいいことあったんよ、でもこれから10年先、20年先は、給料は下がっていくし、仕事はきつくなっていくし…、でも、やってる充実感はあるんで…周りに話してるとうらやましがられるね。不満足な点は、まあ、思ってたより地味と言うか単調な仕事なんで、もーちょっといろいろあればナー。
G:仕組みがしっかりしているだけに…
O:そう、小さな会社だったら自分の意見も言えるやろうけど、1万人超える会社だから自分の意見なんて…。また、上司というのがはっきりいないから…もちろん部長とかはいるんだけど、直属の上司と言うのがいないから、何かあったときに言う人がいないんだよ。そーいう点では、組織の割り切りを持つことが必要とされる部分はあるよ。
G:小さな規模で奮闘するか、大きな規模で割り切るか…
O:まあ仕事選びは、一発で自分が気に入ったところに合えばいいけど、合わない場合も当然あると思うよ。それを学生の時に見極めるというのは無理だよ。社会人でも悩んだり迷ったりしてる。運や適性によるところもあるだろうし、やってみないと分かんないだろうし。でも、基本的には好きなことに挑戦したほうがえーよ。

「いままでで一番怖かったフライトは?」

G:数ヶ月前、アメリカで車輪が横を向いたまま着陸して、火を噴いていましたよね。先輩はあれはできますか。
O:いや〜、あれは大変やと思うよ。俺も実際飛んでてたまたま1回車輪が出なかったことがあって、でも、何回かやってるうちに出たんで何とか降りたけど…。普通やったらレバーをガシャンと下ろせば降りるはずなんやけど、それを表示するランプが点かない。マジかーってなった。
G:それはいつですか?
O:副操縦士の時。5、6年前。その時は機長が当然おって、どーするんかなと思ったら「1回、着陸はやめる」と。上空で旋回しながら状況を無線で知らせてどーしたらいいかという指示を仰ぐ…という判断だった。まあ、それに従ってやっとるうちに事無く降りたから良かったけど、それが降りないままやったらそれこそニュースになるような話。でも、実際、後から聞いてみたら、実際は車輪は降りてて、ランプが点いてなかっただけのことやったんやけど。
G:は〜。
O:飛んでるといろんなことがあるからね。みんなが思っているより機械のトラブルや人為的なミスは多いかも知らん。何万個の部品が集まった飛行機だから全ての部品が完璧という状態ではなくて、故障しててもその1箇所なら支障がないということで規定に従って飛んでるわけ。完全な状態で飛んでることのほうが珍しいぐらい…と言ったらちょっと言い過ぎかも知れんけど…あんまり不安にさしてもいかんな。
G:いままでで一番怖かったフライトは?
O:揺れるときっていうのは、もうとんでもないぐらい揺れるんよ。ひっくりかえるんかなと思うぐらい。
G:乱気流とか?
O:うん。羽田空港というのは、西のほうに向かう時、必ず富士山の風下側を飛ぶようになっとんよ。富士山に強い風が当たると山越えの風が波打った状態になるんよ。そこにぶつかるとすごいよ。特に冬場は注目して気をつけて欲しいね。ジェット気流が強くなるからね。
G:シートベルト着用サインは点いてる?
O:点いててもこれが思った以上に揺れるんよ。もう、そーなると操縦できない。操縦桿は握ってんだけど、自分のコントロールでどーなるもんでもないし、もう、ただ、飛行機にしがみついてるだけ…みたいな状態。乗っとるお客さんはとんでもなく怖いやろうね。こっちも予想ができん状況になるよ。

「そーゆー意味では面白い仕事よ」

G:想定外の危機管理…
O:もちろんいろいろな不測の事態に対処する訓練は受けとるけど、それでも想像してなかったことがたまに起こるから。それこそさっきのニュースみたいに…
G:前傾姿勢で空港入って…
O:うん。でもそーゆー訓練は普段しないから。まさかそんなことになるなんて思わないから、もう一発勝負。普段の自分の経験を元にこーやるのがいいんじゃないかと自分で判断してやるしかない。
G:着陸だけは自分でやるんですよね?
O:離着陸は自分でやる。自動操縦というのは上空の水平飛行中。今のお客さんが乗っている飛行機は、離陸は機械ではできないんで必ず離陸はパイロットがやる。着陸はさっき言ったみたいに空港設備が整っているところは完全にやってくれるとこもあるけど、基本的には必ず自分でやる。少々天気が悪くても。だから、面白いよ。難しい時には、お客さんには分からんけど「やった!」という達成感みたいなもんがある。「これだけ天気が悪いのに飛行機を無事に降ろした」という充実感。すっごい疲れるけどね。降りた後「はぁ〜」という感じ。そんな事も何回かあるけど。そーゆー意味では面白い仕事よ。 ところで、パイロット以外の選択肢は?
G:旅行業界です。
O:それは、旅行が好きなん?
G:そーですね。人を運ぶのが好きというか…パイロットだったら300人の人を運ぶわけじゃないですか…
O:これから2階建てになったら800人になるよ。まあ、でも、実際飛ばしてるときは、1人のお客さんでも300人でも違いは感じないけどね。人が多いときに飛行機が揺れてトイレを不自由させたり、場合によってはお客さんを骨折させたりするとパイロットの責任になるから確かに気は遣うけど、操縦自体に違いはないね。

「学生もおもろいけど、社会人もおもろいよ」

O:最近、学舎の生活はどうなん?みな、学校行ってんの?
G:いや、みんな行ってないですね(笑)。
O:ほうか。でも、大学は4年で出たほうがいいと思うよ。出れるんだったら。出れるっていうか…多分出れるだろう。それを、学舎の中にズルズルいるとどーしても留年とかになってしまうけど…、親にも申し訳ないし、そーしよってプラスになればえーけど、時間の無駄遣いにもなりかねんから、学校はしっかり4年で出たほうがえー。社会に出て自分の世界を広げていったほうがえーと思うよ。学生もおもろいけど、社会人もおもろいよ。なったらなったで。自分で稼いだ金で生きていけるんだから…。
G:長期休暇みたいなもんはあるんですか?
O:おう。うちの会社の場合1年に1回2週間連続で休まないかんの。
G:いいですね〜。
O:すごいうらやましがられるけど…パイロットならではの部分がある。パイロットというのは1回1回完結やけん、何ヶ月も持ち越してプロジェクトをやるような仕事じゃないけん、来年ここで2週間休みって予約しとけば大体その通り取れる。給料はその分減るんやけど、2週間休めるというのは大きい。
G:えっつ?給料減るんですか?
O:減るよ。パイロットの給料というのは固定給+歩合給。パイロットの高給イメージは手当ての部分が大きい。
G:はぁ、乗ってなんぼですか。引かれることもあるんですか?
O:飛べば飛ぶほど足していくんやけど…まあ、最低の部分はあるんやけど、毎月飛ぶ飛ばないに関らず、まあ、これぐらいは飛んだことにしましょというラインが…実際はそれ以上に飛んでるんだけど…月平均で言うと、5〜60時間はフライトしてるわけ。それで普段の給料なんだけど、月によっては70時間飛んだりとかある。そーすると手取りが増える。実際40時間ぐらいしか飛ばないと減ったりする。で、自分が、例えばいっぱい飛びたいとか言ってもその希望は全然通らない。スケジュール決める人の裁量次第。それも、月によって忙しい、忙しくないの山がある。たまたま忙しくない時期に当たってしまうと少なくなるし、忙しい時期…例えば年末年始に当たるとそれなりに給料も上がる。月によって給料が変わるんよ。

「最高の親孝行ですね。」

G:何月が一番忙しいですか?
O:乗ってる飛行機によって違う。俺が乗ってる300人乗りの飛行機は国内線がメインなんで、国内線でちょっとお客さんが少なくなってきたかなあという時期が忙しい。
G:えっ?
O:というのは、お客さんが多くなってきたらジャンボが飛ぶから。そーいう訳で以外に2〜3月の頭が忙しい。
G:やっぱり年末年始は休めないですか?
O:パイロットの休みは月間10日の公休、年間20日の有休。そしてさっきの2週間連続休暇。だから、お盆とか年末年始は関係なしだから…人によっては年末年始にビッチリ働く人もいれば、次の年は逆にバッチリ休ましてくださいって休むこともあるし…それでも、人が休みのときにどーしても働く時間は多くなるね。夏休み、冬休み、春休み…。
G:家族を乗せたことはありますか?
O:初めて機長になったときの便に家族と親を乗せたよ。
G:最高の親孝行ですね。
O:その時1回だけやけどね。
G:親は先輩がパイロットになったのをどー思ってらっしゃいます?
O:試験受けとる時は言うてなかったんよ。いよいよ最後の面接ぐらいでひょっとして受かったらパイロットになるかもしらんって言うたら「へ〜」って感じで…それまで俺は公務員で田舎に戻るつもりやったんよ。県庁か市役所に勤めようかなと思ってたから… 意外は意外よ。
G:自分も親には言ってないんですよ。親も自分がどんな職業に就きたいか知らないですよ。
O:親に相談するのもえーと思うけど、よっぽどこーせいという親じゃなければ自分で決めてチャンレンジしてもいいんじゃないかな。実家を継がんといかんとか言う事情があれば別やけど…。

「今、バラ色の職業ってあるんかな?」

G:先輩にとって仕事って何ですか?
O:仕事…。仕事ねえ。まず、生活の糧を得るため。そして、それを自分が好きなことをしながらできること…かな。パイロットってストレスたまるでしょってよく言われるけど、イヤイヤやっとるとか言う変なストレスは無いから。
G:お子さんも誇りですよね。
O:まだ小さいから分かってないと思うけど…。最近まで社宅にいたから世のお父さんはみんなパイロットやと思うとる(笑)。
G:それは豪華ですね。パイロットになると、家族サービスができないイメージがありますが…?
O:家族サービス…。まあ、確かに家にいる時間は少ないかもしれんけど…まあ、休みは休みでしっかりあるからそーでもないよ。今は、会社以外に組合というのがあって、家で休む時間が削られるという状況もあるけど…
G:組合ですか?そーいえば、最近のニュースでは給料カットの話なども聞きますね。
O:航空業界自体の需要は膨らんでいくにしても、中の業務待遇自体はそー良くはならない…というかむしろこれからは徐々に徐々に下がっていく…と思うから、その点は覚悟して臨まんといかんよ。今、バラ色の職業ってあるんかな?
G:どーゆー職業についても…やっぱり大変ですよね。
O:うん、それは覚悟しといたほうがいい。でも、航空業界が先細りの先が見えない業界かというとそーでもないんで、いろいろチャンスもあるだろうし、まだ、徐々に拡大する業界ではあるし。パイロットに限らずいろいろ見てみて、どーしても航空業界に入りたいんであればそれはそれでいいんじゃないかと思うよ。けど、入る会社、就く職業によって格差は結構あるから、どーしても賃金の部分を考えるとやっぱり吟味は必要やと思うね。同んなじパイロットでも小さい航空会社に入るのと大手に入るのとだと天と地ほどの差がある。小さい所のパイロットだと半分あるいは1/3くらいの賃金でやってるからね。

「それだけの仕事を任されるというのは自分としてもうれしい」

O:これから何年かの間は団塊の世代がどんどん辞めていくんで、年間50〜100人ほど採用すると思うよ。そーゆー意味ではチャンスだよ。つい5年ぐらい前までは採用0だったから。そーゆー状況は脱したんでなりやすい状況にはなってきつつあると思うよ。俺の頃なんてのは年間で100人ぐらいパイロットを採用してた時期だったのに…そーゆーのもあって俺なんか入れたところもあるんだけど…結構優秀な人が集まってくると思うから…試しに受けてみてなってしまうというパターンもあると思うし…。
G:先輩は平衡感覚がすごい優れていたというのは利根川さんから聞きました。
O:どこでそんな!平衡感覚?えぇー!俺は運動神経ははっきり言って良くないよ。
G:それも言っていました(笑)。
O:こらっ!まあ、目は良かったんで…今も1.5以上やし…自信は持ってたけど、その他には特に不健康なところはないという程度で普通に受けたんだけどね。
G:体調管理ってどの程度求められますか?
O:ホントはもっと運動しないといけないんだけど、最近、中年太りなんだ(笑)。人によってはすごい節制している人もいるし、酒を好きなだけ飲んでる人もいる…人によるね。体質にもよるし。でも、基本的にはみんな気にはしてる。半年に1回必ず身体検査があるんで、それに受からないことには飛行機に乗れないからね。それ以外にもパイロットの資格(操縦技術など)を維持していくための試験も半年に1回ある。そのための準備や訓練が大変は大変。航空業界の規則なんかもしょっちゅう変わるんでそーゆーのも見て自分で勉強していかないといかん。間違ったこと覚えてて間違ったことやったら必ず責任取らされるから。そーゆー意味では責任が重い。でも、それだけの仕事を任されるというのは自分としてもうれしい部分がある。飛行機の値段は1機100億円は下らないというものを任されて、お客さんの命を預かるわけやから…大きな責任感とやりがいが伴う職業だよ。それをプレッシャーと感じるかもしれないけど…
G:でも、プレッシャーと感じてたらやっていけないと思うんですけど…
O:そう、プレッシャーと感じないような鈍感な人のほうが…だから、学舎にいるような胆の据わった人間のほうがええんよ(笑)。えーかげんちゅうか太い神経持っとるほうが良かったりする。

「自分にそれだけの資本が投下されているということ」

G:それぐらいのすごいモンを自分が動かしてると思うような人のほうが…
O:そう!あまり神経質な人は向かないと思うし、かといってあまりいい加減な人ではダメだし…バランスが必要。
O:あんまりパイロットになりたいなりたいって試験受けるんじゃなくて、まあ、とりあえず受けてみようかっちゅうぐらいの気持ちで受けて、自社養成に受からなければ受からないでも、航空大学という道もあれば、個人でライセンスとって入社してくる人もいないではないし。だけど…個人で取る場合はとんでもない費用がかかると思う…1千万単位の…だから、自社養成で育ててもらうというのは自分にそれだけの資本が投下されているということだから…ありがたいこと。
G:すごい人材育成ですね。
O:それこそ機長になるまでには1億円かかるとも言われてる。
G:健康診断以外にも精神面でのチェックなんかもありますか?例えば精神科医のカウンセリングのような?
O:カウンセリングは自分で受けたければ受けるけど、半年に1回の身体検査では精神科にも必ず行かないかん。で、お医者さんといろいろ面談して最近どうですかとかの雑談から始まって、何か悩み事は?みたいな話まで…まあカウンセリングかな…そーゆーのをやる。中には思いつめるタイプの人も出てくるみたいで、精神系のことでひっかかってフライトできないという人もいる。事故を起こさないまでも乗ってて怖い目に会ってPTSD心的外傷後ストレス障害)になる人もいるみたいで、自分は怖くてもう飛行機を操縦できませんという状態になる。

「グッドラック」

G:「よく分かる航空業界」という本を読んできたんですが…
O:そーゆーのに書いてあることは…確かにその通りなんやけど、表面的なことしか書いてないからな…。
G:そーですね。
O:読んでみて何か思ったことある?
G:現状の説明みたいなものなんで…。機体はほとんどリースだとか。
O:飛行機に乗ると必ず所有者の名前というのが刻印されてるんだけど、飛行機によって違っててビックリすることはあるね。
G:元、機長が書いた本なども読んでます。
O:そう、パイロットの中には多才な人がいて、店をやったり、マンション経営やったり、最近本出して結構売れてる人もいたりして…副業というかサイドビジネスやってる人が多かったりするよ。変わったところではワインの評論家でTVに出てる人や、クイズ番組に出てる人もいるし、大食い番組に出たり…いろんな人がいるよ。サラリーマンだからあまり副業はよろしくないと思うけど、世間がおおらかに見てくれてるところがあるような気がする。
G:僕らの世代での航空業界に対する憧れは「グッドラック」っていうドラマがあって、自分もそんな部分があるんですよ。
O:おぉー「グッドラック」ね。まさか、キムタク…(笑)。
G:いえいえ、自分は竹中直人のほうのキャラですが。最近そのドラマをレンタルで借りて通しで見たんですが、俄然モチベーションが上がりました(笑)。
O:キムタクに演技指導したのは本物のパイロット。あのドラマの反響は大きいみたいね。
G:夏に愛媛でも再放送してて、今回ワールド(西調布のレンタルビデオ屋)で全巻借りて1日で全部見たんですよ。
O:あれはウソっぽいことは特にしてないよ。もちろん多少の脚色はあるけど、実際のエピソードに基づいてたり、動きの描写はほぼ本物よ。だから、スチュワーデス物語ほどウソっぽくはない(笑)。
G:あのドラマはホント良かったですよ。よく分かりましたし…
O:まあいいんじゃない。そーゆーきっかけで興味持ってる人は大勢いるし…
G:実際学舎の先輩と「ユーハーブ」「アイハーブ」使ってますよ(笑)。
O:実際そんな感じ(笑)。
G:先輩の将来の夢って何ですか?
O:う〜ん。とりあえず機長になる夢は達成したからね。定年まで勤めて…その後どーしようかね…。田舎に帰れたら帰ろかなとも考えてる。東京の生活ってあんまり好きじゃないんよ。
ここで他の学生が合流。今回のトーク紹介はここまで。インタビュー、文責:運営委員・中野

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【対談後のO氏】
就職に際しては、できるだけ多くの人の話を聞いてみて、最終的に自分で決めることが大事だと思います。学舎の先輩をどんどん利用してください。

【G君から】
本番の試験は二次でダメだったんですけど、いい時期に普段聞けないような貴重な話を聞けてよかったと思います。今回の企画を計画また実施していただきありがとうございました。これを糧にこれからの就職活動もがんばりたいと思います。 先輩!ごちそうさまでした。

場所:-車-有楽町店